奥様とご主人とチビくん|その1

 

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以前バリ島のローカルエリアに複数回の中期滞在してたのです。
知人の日本語サイトを手伝い、そこから現地スタッフの日本語学習の
お手伝いへ。とは言え私のインドネシア語も初級編。
お互いに教え合いながら、という感じ。
宿泊施設だったからインテリア選び、簡単な食事メニューも作成。

庭も好きにして良いと許可が出たので、農家で肥沃な土を買い
鉢屋さんで大きな鉢をいくつも買い、苗木市場で香りの良い花を集めて
フレグラント・ガーデンに。
蝶やミツバチ、小鳥と共にご近所の花泥棒(!)まで集める人気の庭に。

花はバリ・ヒンドゥーのお供えに毎日使われる為、市場で売られてる。
マグノリアの仲間、Champakaチュンパカとか香りの良い花は特に高値。
だから、まだ日が昇る前にそっと摘みに来る人が。
番犬のワンコが「花泥棒来ましたよ」と吠えて報告。

ピンクとパープルが入り混じる幻想的な朝焼けの中、
花の香りが一番強い早朝、辺り一面に漂う甘い香りを満喫して
花を摘み、玄関先や室内へ飾ってから、近くの竹林のある
細い砂利道を散歩するのが日課だったのです。

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日本の長期休暇に合わせて友人や家族を誘い
静かなエリアでのんびりホテル滞在することも。

ある時、たまたま日本の知人一家の家族旅行と日程が合い
食事を一緒にしたのです。
年末年始はハワイの定宿で過ごすという一家。
高級ホテルの立ち並ぶヌサ・ドゥアで初めてのバリ島滞在。

まだ子供が居ない頃、うちで集まって食事したこともあったので
私がアジア系の料理を好きなことも知っている。
「ねえ、普段食べてる美味しいお店に連れてって。ごちそうするわ」
と言われたのです。

「私の行くお店はワインとか炭酸水とか置いてないですよ」
とやんわり断ったのだけどそれでいい、と譲らない。

そこでインドネシア各地にある、ソロ料理が名物のチェーン店にした。
お喋り好きな奥様なので、バリ島に二件あるうちの
比較的空いている方のお店へ向かう。
お昼時間を過ぎていた為、お客さんは私達4人だけ。
天上が高くオープンエアの広い店内は風が吹き抜けて気持ちが良い。
三角顔でスリム体型の猫が数匹、私達のオーダー待ちをしている。

ほとんど文字だけの素っ気ないメニューを見る夫妻の表情が
何やら強張っている。ちょっとした緊張感が漂う。
「えっと、ここピリ辛のチキンのバーベキューが有名なんですけど
他のメニューも外れ無しですよ。鶏、牛、シーフード何がいいですか?」

「マドゥさんは何頼むの?」
と、聞き返されたので
「いつも頼むのは空芯菜炒めと味付けテンペと
アヤム・リチャリチャ(北スラウェシ・マナドの旨辛ソース・チキン)とか
カラッと揚げた淡水魚グーラミィのあんかけとか、ナスの煮込みとか、
肉厚のイカの唐揚げとか小エビの惣菜とかですねー」
と、答えると
「じゃ、それ全部頼んでくれる?」
と全権を握る奥様の言葉に、無言でうなずく大柄強面のご主人。

無口なチビくんに
「甘いチョコレートの入ったアボカドジュースも有るけど飲む?」
と聞くとコクンとうなずく。

若い女性店員は小さなライムが浮いたフィンガーボウルと共に
スプーンとフォーク、紙ナプキンを持ってきてくれた。
外国人だけどどうやら言葉が通じる、と安心した様子が顔に出る。
テンペは子供用に辛くないのを少し追加してもらい全部オーダー。

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いつも機関銃のように喋りまくる奥様が無言だ。
大酒飲みのご主人のビールのペースも遅い。
(んー、失敗か。お気に召さなかったみたい)

空気をほぐすためお店の話をしてみた。
インドネシア全土に数店舗ある人気チェーン店で、
他の島からの観光客がツアーバスでやって来る事もあるんです。
TVでよく見る人気アーティストがライブの時立ち寄るから、
あの壁にあるサインとか写真とかみんな有名人のですよ。
後、聞いた話ではオーナー夫人にそれぞれお店を持たせてるんだとか。
奥さんでチェーン展開とか日本ではあり得ないすごい話ですよねえ」

「前に、日本にもお店が出来たらいいのに、と店員に言ったら
『結婚すれば東京店が出来るわよ』と冗談言われたんです。あははー」
(あ、笑った。ちょっとほぐれて来たか?)

最初の料理が数品運ばれてきた。ローカルのお店では定番の
プラスチック製プリント皿や安価な白い皿に素っ気ない盛り付け。

一家のテンションは上がらない。

が、いくつか口にした途端に、まずご主人の顔がゆるみ
「ナス、もう3つ追加ね。あと小エビも2つ!」
「マドゥさん、何これー、美味しいじゃない!今んとこ全部当たりよ」
奥様の動きがたちまちスピードを上げる。
チビくんも次々手を伸ばしている。うっかりピリ辛に手を出し
「ひはぁー」と舌を出すが何だか楽しそうだ。

あー、良かった。
奥様の機関銃は通常通り全開になり止まること無く続く。
ツアーの日本語ガイドに細かいニュアンスが通じない、
お店で英語が通じない事も多い、食事が割高で味がイマイチだった、
イカンバカール(浜焼シーフード)も期待した程じゃなかった、
バリ雑貨はかわいくて欲しいけど日本のインテリアに合わない、とか…。
合いの手でご主人は援護射撃だ。

聞けば大抵ツアーガイドが連れて行ったお店らしい。
もっと良いお店もたくさん有りますよ、と言うと
「じゃ、案内してよ。車チャーターするわ」
となり、否応なく全ての手配を一任される。

そうだ、忘れてた。
ここんち、暴君夫妻だった。

以前うちで集まって食事作った時も
「あと何品有るの?お腹配分出来ない!お品書きを出せー!!」
と酔っ払って叫んでたなあ。もしかして地雷踏んだか、私?


結局オーダーした料理をほとんど再注文し、他にサイドディッシュを
少し追加してジュース・ビールもお替わり。軽く二時間半は居ただろうか。
三角顔の猫たちも飽きて散っていった。

会計時、食事のお礼を言う私に奥様が日本円でいくら位かと聞いてきた。
その日のレートでだいたいの金額を答えると
「あんなに頼んだのにそんな安いの!?」

ここはローカルが食べるにはやや高め、観光客には安く感じる価格設定。
そりゃ、カッパギ村【←むしり取るの意】と密かに呼ばれる
ヌサ・ドゥアで食べてたら激安に感じるでしょうね。

「またこのお店に来たいけど、どうしたらいいの?何処なのココ?」
「気に入ってもらえて良かったです。私はお店のショップカードか
オーナーの名刺をもらうんです。それをタクシー運転手に見せれば
大丈夫。帰る時はお店でタクシーを呼んでもらうといいですよ」
店員にショップカードをもらい、奥様とご主人に渡す。

「コレはアナタに」
と10枚くらい手渡す店員。ん、なんで?
「又お客さん連れてきたらキックバックするわ」
と、ウインクされた。
あははは、ちゃっかりしてるとこがバリ島だ。


無口なチビくんが帰りがけのタクシーで
「バリ、おいしい」
とつぶやいた。

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